アキラ
アキラのウチは、お手本みたいな貧乏家庭だった。
トタン屋根、6畳一間に台所、五右衛門風呂、汲み取り便所。父は病気で転職して年寄りどもに混じって公園の草むしりするのが仕事。姉は中卒で女工になり、兄も中卒で大阪の工場へ行った。
小学生でタバコを吸い、中1で違法ドラッグも覚えたアキラは、本当は気の弱いお人よしだった。乱闘の時も一番後ろでオロオロするだけ。タイマンになれば逃げる。
なのにアキラは貧乏なウチの子だから、それだけで白い目で見られ、自然と同じ環境のやつらが集まったその集団の中ですごしてた。
中学を卒業したらみんなでお揃いの刺青入れようって話になった。みんな、カツアゲやら上納金やらで金作ってきた。
アキラは、金を作れなかった。母親が卒業と就職のお祝いにといって買ってくれた腕時計を質屋に流して金を作った。
そして、お揃いの蝶の刺青を入れた。
就職した大阪の工場は辛かった。寮生活。全国各地から集まった「地元じゃ最強」たち。
毎晩、寮の風呂で一番偉いヤツから体中を切り刻まれた。「お前切ると気持いいわあ」
耐えられず、地元に逃げ帰った。
地元には、同じように逃げ帰ってきてた当時の仲間が多数いた。毎日、暴れて回った。いきがった車を見つけては破壊して回ってた。
ある日、昔から気に入らなかったやつの車がとめてあるのを見つけた。いつも通り、破壊した。車の中にあった金を奪って、飲み屋街へ向って歩いてた。
そして、アキラが刺された。犯人は、さっき破壊した車の持ち主。
数週間の意識不明が続き、無事退院出来た。
復帰後はドカタとしてそれなりの人生送ってる。今も独身。酔うと凶暴になることはあるけれど、昔のアキラとは確かに、違う。幼い頃の、お人よしで気の弱いアキラだ。もう、群れて強がって見せる必要はない。
アキラの父はガンで死んだ。生涯、何一つ贅沢というものを体験しないまま死んだ。
母は、まだ生きてる。そして、盆正月になると俺に「飲みにこんね?こっちにおるとだろ?(飲みにおいでよ。この街にいるんでしょ?」って声かけてくれる。
この母親、気丈で力強く生きてきた人だったけれど。すごく印象に残っている会話がある。
まだアキラが子供だった頃、食うに困って近所の米屋に「米を借りに」いったそうだ。そして、冷たく追い返されたと。
そして時がたち、数年前。その米屋がやって来て「首吊るしかないんです。少しでいいんで買ってもらえませんか」
母は、過去のやり取りを話、追い返したそうだ。
「そっで、もう、追い返してやったったい!貧乏人は入ってくんなあっち行けって言われたた絶対忘れん」
嬉しそうだった。